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青森家庭裁判所五所川原支部 昭和63年(家)32号 審判 1989年2月15日

主文

本件申立を却下する。

理由

第1申立の要旨及び実情

申立人らは、昭和48年11月17日婚姻した夫婦であり、子供ができなかったため、昭和58年11月28日事件本人有馬真理子(以下「事件本人子」という。)と普通養子縁組をし、養父母として同人を実子と同様に養育監護してきた者であるが、今後同人を実子同様に養育してゆくにあたり、普通養子では何かと養子としての名の出ることがあり、緊密な親子関係を形成してゆくうえで支障となるので、法律上実子と同様の取扱いがなされるという特別養子制度の施行にともない、上記養育の趣旨を充足すべく、事件本人子を申立人らの特別養子とする旨の審判を求める。

第2当裁判所の判断

1  本件記録によれは、特別養子縁組成立に必要な民法817条の3ないし6各所定の要件が存すること並びに次のとおりの事実を認めることができる。

(1)  事件本人藤田清美(以下「事件本人母」という。)は、会社員の父と家庭主婦の母の間の3人姉弟の長女として名古屋市で出生し、同市内の高校在学中に高校生と交際して妊娠した。この妊娠に関し、事件本人母の父母や周囲の者は出産に反対の意向であったが、事件本人母は、子供を出産することとし、相手方男性もこれを了承し、事件本人母は、出産した子を養育する意向で事態が推移した。しかるところ、上記出産を間近にして、事件本人母の意向とは別に、生まれてくる子を他人に養子として養育してもらう手当てが講じられ、その旨事件本人母に一応伝えられるなか事件本人子が出生し、愛知県産婦人科医会の斡族により以前から同会に養子斡旋の申込をしていた青森県在住の申立人らのもとに昭和58年9月20日ころ養子斡族の旨併せ事件本人子の名を申立人らで決めておくよう連絡があり、申立人らは、名古屋市内の事件本人子の出生病院に赴き、事件本人母の両親と会い、申立人らで命名のうえ同人の出生届出がなされ、事件本人子を引取った。そして、申立人らは、昭和58年11月28日に事件本人と養子縁組をし、上記引取以来熱意と愛情をもって事件本人子を養育監護し、事件本人子は格別の病気もせず健康に成長し現在幼稚園に通園している。なお、上記男性から事件本人子の認知はなされなかった。

(2)  事件本人母は、上記妊娠と出産のため高校3年生で中退し、その後も上記男性と交際していたところ、しばらくして交際しなくなり、現住所である両親宅で両親と弟2人と同居して生活しながら昭和63年5月ころまで4年間会社員として勤務し、この間約100万円程の預金をしていたところ、同会社を辞め、現在は喫茶店でアルバイト店員をしながら時給500ないし600円で月収約10万円程を得ているものであるが、他所への再就職を考えており、家庭は、父と弟2人は就労しており、家族間において格別の問題はなく、自家用車を有し(ローン残債務約40万円程)、当面婚姻の予定はない。そして、事件本人母は、事件本人子が申立人らに引取られて以来現在まで、申立人ら及び事件本人子との接触や連絡をしたことは一切なく、また、そのような働き掛けもせずに現在に至っており、事件本人子が特別養子となることに同意している。

2  そこで、民法817条の7所定の要件の存否を検討する。

上記事実によると、申立人らと事件本人子は、普通養子縁組をした親子であり、父母である申立人らにより事件本人子に対する相当な養育監護がなされており、また、実母たる事件本人母について同養育監護を害するなどその実親子関係を断絶することを必要とするような事由は存しない。すると、普通養子としての親子関係を特別養子に変更すべき必要性があるとはいえないところ、申立人らは、昭和58年に養子縁組をしたもので、当時は特別養子制度を選択する途はなかったのであるから、本件申立については、同条所定の要件を判断してゆくに当たり、申立人らと事件本人子は親子関係にないものとしてその要件をさらに子細に判断することが相当と解せられる。

このようにして上記要件を判断するについて、本件は、申立人らと事件本人子との生活が長期間継続しているとの状況にあり、現在事件本人子と事件本人母との接触はなく現時点における事件本人母による事件本人子に対する具体的な監護状況の把握認定は困難であることから、事件本人子が申立人らに引取られたころから現在までの事件本人母の側の状況を全体的に考察し、子の利益のためその実親子関係を断絶することが相当かどうかを判断してゆくこととする。そうすると、事件本人母の事件本人子を出産したころの状況については、未成年であり生活能力も不充分で、父親が未認知の事件本人を養育監護してゆくことは、事件本人母自身の将来の生活を形成してゆく途上であることも併せ、著しく困難であったことを否定しえないところ、その後事件本人母は成人し、その生活能力は向上し、その生活状況も一応安定化しているというべく、これにその他上記のとおり認められる現在のその収入、資力、生活環境及び生活態度をも併せて総合勘案するに、事件本人母について同条所定の「養子となる者の監護が著しく困難又は不適切であることその他特別の事情がある」というべき事態を推認することはできず、子の利益のためその実親子関係を断絶することを特に必要としそれが相当であるとは認め難い。

3  よって、本件申立は、民法817条の7所定の要件が存することを認めることができず理由がないので、これを却下することとし、主文のとおり審判する。

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